Lazy Gamer's Life

　
「おはようございま～す」
　元気な声が聞こえてきて振り返ると、春香が事務所に入ってくるところだった。
「お、春香か。どうしたんだ？」
「あ、春香ちゃん、いらっしゃい」
　俺と小鳥さんが仕事の手を止めて春香を出迎えると（社長は留守）、春香は嬉しそうに「えへへ」と顔を綻ばせて手にしていた包みを掲げた。
「じゃ～ん！今日はクッキーを持ってきたんですよ。おいしくできたので、皆にも食べてもらいたくって」
「そうか、それは楽しみだ」
「春香ちゃんのクッキー、美味しいですもんね」
「それで、今から一緒に食べませんか？」
　言われて時計を確認する。ん…昼までには時間があるし、少しくらいならいいか。
「そうだな。それじゃ、コーヒーでも…」
「あ、私が淹れてきますよ」
「じゃあお願いします」
「はい。ちょっと待っててね。……クッキーかぁ……ダイエット……す、少しくらいなら……」
　何やら呟きながら給湯室に向かう小鳥さんを見送って、
「じゃ、テーブルで食べるか」
「はい♪」
　春香を促してテーブルに向かう。別段転ぶような事も無く（笑）春香はテーブルにたどり着いて包みを広げて、クッキーを入れているタッパーの蓋を開けた。クッキーの甘く香ばしいいい香りが広がってくる。その中に少しスッとする香りも含まれていた。
「おおっ、いい香りだな」
「はい。ハーブクッキーです。自信作ですよ。甘さは控えめにしてあるので、たくさん食べてくださいね」
　テーブルの席について小鳥さんを待ちながら春香と会話する。
「最近、調子はどうだ？」
　春香は現在、他所から依頼したプロデューサーについてアイドルデビューしている。まだ春香がアイドル候補生だったころ、春香のレッスンを見てやっていたので気になっていた。
「う～ん、やっぱり芸能界は厳しいですよ～。せっかく出したＣＤだって全然売れませんし…」
「はは、すぐに人気が出たら誰も苦労なんてしないよ。あずささんも千早もデビュー当時は大変だったんだぞ」
　ま、千早もまだデビューして間が無いんだけどな。
　そんなことを言ってるところに、コーヒーをトレイに乗せた小鳥さんがやってきた。
「そうですよ、春香ちゃん。アイドルとは言ってもまずは地道な活動があってのことなんですから。はい、春香ちゃん、プロデューサーさん」
「ありがとう」「ありがとうございます」
　礼を言ってコーヒーを受け取る。小鳥さんはそのまま俺の斜め前、春香の隣の席に腰を下ろした。
「ま、小鳥さんの言うとおり、最初は地道な営業するしかないからなー。直接ＣＤショップに行って販促したり、ゲリラライブしたり、地方巡りしたり…」
「うう…大変なんですね…」
　よよよ、とわざとらしく肩を落とす春香。
「でも、プロデューサーがすっごく厳しい人で…この前ちょっと転んだだけで怒られちゃいましたし」
「それは酷いな」
「そうですよね！」
　勢い勇んで頷く春香に、俺も大きく頷き返す。
「ああ、春香に転ばないように注意するなんて…それじゃ、春香のアイデンティティの全否定じゃないか！」
「うんうん、って違います！酷いですよ、プロデューサーさん！」
「はは、悪い悪い」
　笑いながら謝罪すると、春香は「もうっ」と頬を膨らませてしまった。小鳥さんは俺たちのやり取りがおかしかったのかクスクスと笑っている。
「ところで春香」
「ん？何ですか？」
「俺が春香のプロデュースをしているわけじゃないから、俺のことはプロデューサーって呼ばなくてもいいんだぞ？」
　と言うか、一々紛らわしい。春香はプロデューサーとプロデューサーさんで呼び分けしているみたいだけど。
「えっ！？で、でも、ずっとプロデューサーさんって呼んでましたから、今更呼び方を変えるのって、なんか恥ずかしいですよ～」
「そんなもんかね」
「まぁ、春香ちゃんの好きなように呼ばせてあげてください」
　小鳥さんからもそんなフォローが入った。まぁ、そこまで気にするようなことではないので、クッキーを摘みながら応える。
「ま、別にいいけど……おっ、本当うまいな。甘さが控えめなのがいい感じだ」
「あ、本当に美味しい」
「今度はケーキを焼いてきますから、楽しみにしてて下さいね」
「おう、楽しみにしておく」
　嬉しそうに微笑む春香に、俺も笑顔で応える。
　小鳥さんはそんな俺たちを見て顔を綻ばせた後、ふと表情を雲らせた。
「…春香ちゃん、やっぱりまだプロデューサーさんに未練が……仕方の無かったこととは言え、うう、良心が……」
「どうかしました？」
　何やら呟いていたので気になって訊ねると、小鳥さんは慌てたようにぶんぶんと首を振った。
「い、いいえ。ケ、ケーキ楽しみですね？」
「えへへ、待っててくださいね。あ、でも小鳥さん、あんまり食べると太っちゃいますよ～、なんて」
「うっ…！」
　春香の冗談めかした言葉に、うっと胸を押さえる小鳥さん。…ああ、そういえばダイエットがどうとか言ってような…
「す、すみません！私、まずいこと言っちゃいました」
「そ、そんなことないわよ。最近、体重計に乗るのが怖かったりとか、スカートがきつくなってきたりとか、全然そんなことなんてないから。ええ！」
「…小鳥さん、今度一緒にトレーニングでもしましょう」
　自爆っぷりがあまりにも哀れだったので、ついそんなことを言ってしまう。
「…うう、はい…」
「そ、その時は私も付き合いますよ！」
　そんな会話を交わしながら、そのまま昼休みになるまで談笑した。

　…仕事は？とか野暮なこと突っ込むな。
　ま、あずささんはオフだし、千早もスタジオ借りられたのが夕方からだったし、構わないよな。うん。







　オチねー！
　主人公がプロデュースしてるのはあずささんと千早の二人。
　あずささんがＣランクになって安定してきたこともあって、オーディションでアイドル候補生になったばかりの千早を同時にプロデュースすることになった。千早はまだＥランク。因みに、春香は本当にデビューして間が無いのでＦランク。
　主人公が春香のレッスンをみていたりしたのは、本来なら春香をプロデュースする予定だったから。それがお流れになったのは千早が原因だったり。詳しい事情はいずれ。